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角膜疾患
角膜移植(角膜全層移植・角膜内皮移植(DSAEK)(DMEK)・角膜深層層状移植(DALK)・角膜表層層状移植)

角膜移植とは

混濁した角膜の中央部を円く切り取って、他人の眼(屍体眼)から採取した同じ大きさの透明な角膜を縫着します。角膜は元来透明ですが、ヘルペスや他の原因の角膜炎、遺伝性家族性角膜変性症等の疾患で角膜が濁ってくることがあります。近年多いのが角膜内皮代償不全((注)下参照)によって起きてくる角膜の浮腫(はれ)、混濁(にごり)です。また円錐角膜といって角膜が円錐状にとがって形を変える疾患も最終段階では角膜移植の対象となります。他にも沢山の疾患がありますが、永続する混濁によって視力が低下した角膜疾患は全て角膜移植の対象となります。

角膜は図のように表層側から角膜上皮層、Bowman膜(ボウマン膜)、角膜実質層、Descemet膜(デスメ膜)、角膜内皮層と5層の組織から成り立っています(図1)。従来は、この角膜全層を新鮮な正常のドナー(アイバンクから提供される角膜)と交換する、いわゆる角膜全層移植が行われていました。しかし近年の角膜移植の進歩によって従来の方法に加え、移植を必要とする層だけを移植するようになりました。これによって角膜実質の深層のみを移植する角膜深層層状移植DALK(ダルク)、内皮細胞層のみを移植するDSAEK(ディーセック)やDMEK(ディーメック)という方法があります。

■角膜内皮代償不全とは

角膜の裏側(眼内側・図1参照)は一層の角膜内皮と言う細胞で覆われています。この内皮細胞の重要な働きの一つはポンプ作用です。角膜に入ってくる水分を絶えずポンプ作用でくみ出して、水分の含有量を一定に保ちます。これによって角膜の透明性が維持されています。この細胞は生まれた時からの数は決まっていて、分裂する能力がないため、増えることができません。年齢と共に徐々に減少します。60才前後の人の正常の内皮細胞密度は2,500~3,000個/mm²です。この内皮細胞が外傷やいろいろな眼疾患ダメージを受け、500個/mm²位になりますと、ポンプ作用が不充分となり角膜に水が溜まり始め徐々に混濁し視力も低下して来ます。

角膜移植の種類

角膜組織の全層を移植する全層移植と一部の組織を移植する(角膜内皮移植、角膜深層層状移植、角膜表層層状移植)があります。下記を参照ください。

角膜全層移植

角膜実質に混濁や浮腫が存在し角膜内皮細胞も障害されている時にとる術式です。混濁した角膜中央の角膜全層(図1)を直径約7mmの円形に切除し(図a)アイバンクからの角膜を同じく直径7mmで切り取って縫いつけます(図b)。

■術中合併症

非常に稀ですが重篤な合併症として、駆逐性出血があります。眼底から強い出血が起き、一旦起きればなすすべがない事が多く、殆どの場合失明すると言われています。このリスク要因は過去に手術した眼、高血圧、糖尿病、動脈硬化等です。特に高血圧は危険ですので充分な血圧のコントロールが必要となります。また、全身麻酔で手術すると、発生頻度は有意に下がると言われています。当院では角膜全層移植は原則全身麻酔で行っています。頻度は 1,000人に1人(0.1%)と言われていますが、近年の手技の発展によって実際にはもっと頻度は低いと考えられます。当院では角膜移植を50年以上前から行っていますが、このような合併症は一度も経験していません。


■術後合併症

【縫合不全・前房形成不全】

稀ですが起こり得ます。時間経過と共に改善していく場合がほとんどですが、追加処置が必要となることもあります。手術一般の合併症の内、感染症、出血はほとんどありません。

【原発性移植片機能不全】

早期の合併症です。移植角膜の活力が弱いと、手術操作に耐えられず、角膜内皮細胞のポンプ機能が充分に働かず、自身の角膜の透明性が回復しないことがあります。この場合は再手術が必要となります。

【拒絶反応】

大抵術後1~2週間から数ヶ月後の間に10~20%の頻度で起きてきます。中には数年後に起きるものも稀にあります。副腎皮質ステロイドや免疫抑制剤等を全身投与したり眼局所に注射したりします。多くの場合これで治癒します。しかし中には反応が強く、せっかくの角膜が混濁してしまう場合もあります。この程度は様々で手術の前よりもっと強い混濁が生じることも非常に稀にあり得ます(当院1%未満)。この場合は再度角膜移植が必要になります。

【感染症】

抗生剤の投与で非常に稀な合併症ですが、時に縫合糸に生じる事があります。適切な抗生物質の点眼、場合により全身投与で対処します。

【緑内障】

眼圧が上昇して緑内障が起きることがあります。殆どは一過性ですが、稀に眼圧が下降せず、ずっと続くことがあり、この場合は眼圧を下げる点眼薬を続けることになります。

【ヘルペス性角膜炎の再熱】

ヘルペスによる角膜混濁では、混濁した角膜を切除しても移植したドナー角膜に生じることが稀にあります。抗ヘルペス剤で対処します。

【ドライアイ】

角膜移植後はドライアイの影響が強く出やすく、点眼薬で対処します。

角膜内皮移植(DSAEK)(DMEK)

障害された角膜内皮細胞とDescemet膜(デスメ膜)だけを移植交換します(図1参照)。この内皮細胞は分裂して増殖することができません。したがって何らかの原因でこの細胞が減少すると、本来透明であった角膜が混濁し(水疱性角膜症)、著しい視力低下を起こします。このような治療として、以前は角膜全層移植が行われてきました。しかし、最近、角膜内皮細胞だけが悪いのであれば、角膜内皮細胞だけを取り替える(角膜パーツ移植)、角膜内皮移植術が行われるようになりました。全層移植と比べて術後の(不正)乱視が生じにくく、裸眼視力向上が期待できる術式です。

■術後合併症

【移植角膜内皮の接着不良によるドナーの剥離・脱落・偏位】

この手術の性格上、移植片を縫着することができません。移植片の下にガス(空気)を注入して、その浮力を利用して移植片と患者さん自身の角膜とを接着させます。接着が弱いと脱落したり偏位(移植片の中心ずれ)することがあり、再度ドナーの位置補整やガスの注入が必要となる場合があります。

【原発性移植片機能不全】

早期の合併症です。移植角膜の活力が弱いと、手術操作に耐えられず、角膜内皮細胞のポンプ機能が充分に働かず、自身の角膜の透明性が回復しないことがあります。この場合は再手術が必要となります。

【拒絶反応】

全層角膜移植と比べると、角膜の一部の層のみを移植しているので、頻度は非常に低く、数%程度と言われています。治療は全層角膜移植と同じです。

【感染症】

抗生剤の投与で非常に稀な合併症ですが、時に縫合糸に生じる事があります。適切な抗生物質の点眼、場合により全身投与で対処します。

【緑内障】

眼圧が上昇して緑内障が起きることがあります。殆どは一過性ですが、稀に眼圧が下降せず、ずっと続くことがあり、この場合は眼圧を下げる点眼薬を続けることになります。

【ドライアイ】

角膜移植後はドライアイの影響が強く出やすく、点眼薬で対処します。

角膜深層層状移植(DALK)

角膜内皮細胞は正常だが角膜実質層が混濁している場合、Descemet膜(デスメ膜)と内皮細胞層は残して(図1)、混濁した角膜実質層とBowman膜(ボウマン膜)、角膜上皮層だけを移植する手術です。一層の内皮細胞層だけを残しますが、非常に薄くて弱いので稀に術中に破れることがあります。広範囲に破れた場合は全層移植に移行します。

■術後合併症

【術後2重前房】

ドナー角膜とホスト側(手術眼)に残されたデスメ膜から内皮細胞層の間の接着が弱い時に両者が乖離する状態です。デスメ膜から内皮細胞層の下に空気を注入して対処することがあります。

【縫合不全】

稀な合併症ですが、必要であれば、縫合糸を追加します。

【感染症】

抗生剤の投与で非常に稀な合併症ですが、時に縫合糸に生じる事があります。適切な抗生物質の点眼、場合により全身投与で対処します。

【緑内障】

眼圧が上昇して緑内障が起きることがあります。殆どは一過性ですが、稀に眼圧が下降せず、ずっと続くことがあり、この場合は眼圧を下げる点眼薬を続けることになります。

【ヘルペス性角膜炎の再熱】

ヘルペスによる角膜混濁では、混濁した角膜を切除しても移植したドナー角膜に生じることが稀にあります。抗ヘルペス剤で対処します。

【ドライアイ】

角膜移植後はドライアイの影響が強く出やすく、点眼薬で対処します。

角膜表層層状移植

この方法では、角膜混濁の位置や深さによって、角膜実質の浅層を切除して、切除した角膜の厚さに応じたドナー角膜を移植します。昔は角膜実質内の混濁に対して行われていました。しかし近年は、より良い視力が得られる角膜深層層状移植(DALK)が行われるようになり、この角膜表層層状移植は、視力改善目的で行われることはなくなりました。角膜腫瘍などの切除後に一部欠損した角膜組織を補う為に行われます。例えばデルモイド嚢腫((注)下参照)です。デルモイド嚢腫では腫瘍を切除した後、半層厚さのドナー角膜を移植します。術後の瘢痕化を防ぐためです。

■術後合併症

【拒絶反応】

非常に稀にしか起きません。起きても、移植したドナーだけに起きます。通常はホスト側(手術眼)の角膜中央から離れた角膜の端の方に移植する場合が多いのでホスト側の角膜中央には、まず影響は及びません。つまり視力に影響することは、まず無いと考えて良いと思います。手術に伴う一般的な合併症:感染症、出血等。

【感染症】

抗生剤の投与で非常に稀な合併症ですが、時に縫合糸に生じる事があります。適切な抗生物質の点眼、場合により全身投与で対処します。

【(注)デルモイド嚢腫(角結膜類皮腫)】

角膜輪部に生じる先天性の良性腫瘍で発生異常により皮膚組織の小片が角結膜に迷入し異所性に増殖した分離腫の一種です。

なお手術に起因する合併症を全て把握することは不可能なためリスクおよび併発症のリストは完全なものではありません。御不明な点がありましたら主治医にお尋ね下さい。

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